ニいう字は、英語の Off に発音が似てるけれど、こいつが食わせ物なんで、実は、その逆の On なのだ。そして、もう一つの Zu というやつが、Off を意味する。こういうことは、あちこち旅行していると珍らしくない。伊太利《イタリー》語の Caldoが、発音や字形の類似を無視して、ちょうど Cold の正反対の Hot に当るようなものだ。この場合も、冷水のつもりで熱湯を捻《ねじ》って、それこそ手を焼く――などという大失敗を演ずる旅行者が、ちょいちょいある。
 よく犢《こうし》を食べさせられるにも、いい加減うんざりさせられる。じっさい瑞西《スイツル》では、どの牛も、牛になるよほど以前に殺されてしまうのであろうと思われるほど、さかんに、無反省に、犢《コウシ》の肉を出す。が、特に女の人に有難いだろうと思われるのは、チョコレイトである。それでも、戦争前は、もっと安かったものだそうだが、この頃だって、世界のどこよりも見事なのが、ずっと廉価に売られている。飲料はチョコレイトなんかには、じつに素晴らしいものがある。TEAの店も、聖《サン》モリッツあたりでは随分繁昌しているが、女給はお茶を持って来る
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