「のものだが、サン・モリッツとなると、瑞西《スイツル》の国旗を立て並べてお祭りさわぎの装飾をする。ジャンプ場なんか、まるでウィンブルドンの中央テニス・コウトの観がある。広い座席が何段にも重なって、一等席は倫敦《ロンドン》一流の劇場以上の切符代を取ってるくらいだ。そこへ、巨鳥のようにジャンパアが落ちてくると、パティの実写機が光る。運動記者の鉛筆はノウト・ブックを走り、メガフォンがその時々の結果を報告して号令のように轟《とどろ》く。
スケイトも同じだ。聖《サン》モリッツあたりのリンクで、軽業《かるわざ》のような目ざましいスケイティングをやってる連中を見ると、大抵は専門家ばかりである。橇競馬は瑞西《スイツル》じゅうどこにでもあるが、サン・モリッツはゲエムの馬が違う。頭部に色彩の美しい飾りを附けていて、橇もほかのより大きく立派に出来ている。
夜はダンスだ。どんなホテルでも舞踏交響楽のないところはない。昼間、男女の区別もわからないほど荒っぽい毛織物に包まれて雪と氷を生活していた紳士淑女が、短時間のあいだに流行の礼装に早変りして、ステイムと酒の香の温かい床《フロア》に「|触れ《タッチ》」を与え
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