オたが、俄かに起き上った祖母が、戸口や窓のところに立って、しきりに外部を窺っている様子なのです。どうしたんだろう――と思いましたが、そのうちに私も、眠さに負けてしまったとみえます。眼が覚めた時は美しい朝で、祖母はもう床を出て、心配そうに部屋中を歩き廻っていました。
ゆうべ祖母は、確かにあのベギュル・ヌウの跫音《あしおと》を聞いたと言うのです。その小鬼が、一晩じゅう雨に紛れてこの家のまわりを迂路《うろ》ついていた――祖母は、それを自分のお葬式の報《しら》せであると取りました。
『しかし、』と思い切って私は、祖母に注意してみました。『しかし、ベギュル・ヌウなら、お葬式のほかに結婚の先ぶれもすると言うじゃありませんか。きっと、近いうちに、私達のところへ結婚が来るのでしょう。』
すると、祖母は大声に笑い出して、私の小さな希望を失望の破片に変えてしまったのです。
『馬鹿な! 私のようなお婆さんに今になって結婚がやって来るなんて! 冗談もいい加減にするがいい。』
祖母はその後長く生きていました。そして、カルナクの村に、毎年幾組かの新夫婦をふやして行きました。が、私の結婚だけは、とうとう彼女の
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