A視線の一つも投げてくれないということになってしまいました。
が、結婚の問題は、ぼんやりながら始終私の頭にありました。若い女は、何よりも「遅くなる」ことを恐れるものです。しかし、そうかと言って、私から祖母に言い出すことは出来ませんでした。カルナクでは、女はただじっ[#「じっ」に傍点]と待っていなければならないことに決められているのです。
村外れの石山に、ケルト族の墓標だと言い伝えられて来た、円い大きな自然石があります。男性の形で、Croez−Moken ――つまり、若い女が、夜更けに出かけて行ってその上に腰かけるか、跨《また》ぐかすると、きっと一年以内に結婚が出来るという迷信のある石です。私は、今でも一番よくあの辺を覚えているほど、祖母の眼を忍んでは毎晩のように腰かけに行きました。
ところが、その夜は大雨で、私は自家にいなければなりませんでした。あなたは、ブリタニイの雨を御存じですか。大粒な水滴が地面を穿《うが》って叩きつけるのです。私たちは、早くから扉《ドア》を閉めて寝に就きました。が、雨風の音で眠れないので、私は長いこと床のなかで眼をさましていました。すると、ちょうど真夜中で
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