ィに出ると、みんな木へ登って、葉と枝のあいだから悪口を落とすことにきめていました。すると、黒いエプロンに白の帽子をかぶった祖母が、大きな杖を振り上げて、あちこちの方角へ罵声と白眼を投げるのです。言葉はブリトン語でした。そして私たちは牛酪《バター》を作って、旅行者へ売りました。
祖母は、確かに一つの性格でした。昔からの怪談と、鬼どもの話だけはすっかり諳誦していて、村の人は、信じはしませんでしたが、祖母のお話を聞くことだけは、誰も好きなようでした。祖母は、ただ人に怖がられるのが面白かったのかも知れません。色んな人が、夢や前兆のことを訊くために祖母を訪れました。そして、それが、不思議に、みんな祖母の言う通りになるのです。
一度こんなことがありました。
ケリュウ爺さんという村の麺麭《パン》屋が、或る晩、自分の前を走って行く Begul−Nouz を見たと言って、蒼くなって祖母のところへ駈け込んで来ました。このベギュル・ヌウという鬼のことを御存じですか。これは、結婚と葬式の前触れをする役目の小悪魔なのです。そこで祖母は、骨だらけの指をケリュウ爺さんの鼻先で動かしながら、お前さんは一月うちに
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