よほど変ってるんだが、彼自身そっ[#「そっ」に傍点]と私に告白したんだから間違いはあるまい。ロジェル・エ・ギャレは、実に漠然と結婚の相手を探しあぐんで、とうとうこの瑞西《スイツル》の山奥の冬季社交植民地まで辿り登って来たというのである。
とにかく、古いものと新しいものが妙に交錯して、そこに方向を引き歪められた文学的天才の片鱗が潜んでると言ったような、彼は確かに、誇張された感傷癖の希臘《ギリシャ》人らしい希臘人だった。
と、紹介はこれでたくさんだ。
ところで、場面は、瑞西《スイス》サン・モリッツである。
ST.MORITZ――眼をつぶって心描して下さい。雪の山と、雪の野と、雪の谷と、雪の空と、雪の町と、雪の女とを。そしてこの、切り離された小世界に発生する事件と醜聞と華美と笑声と壮麗と雑音とを。
海抜、六千九十|呎《フィート》。エンガディン、テュシスから Coire の経由、またはランドカルト・ダヴォスから汽車。伊太利《イタリー》のテラノから這入ってポントレシナを過ぎる線が、すこし迂回になるけれど一番接続がいい。私達はこれを採った。
サン・モリッツは、豪奢第一《ファッショナブル
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