けだが、――聖《サン》モリッツ中の異性の嗅覚を陶酔させようとTRYしていたことも、要するに、ロジェル・エ・ギャレという存在は、或いは彼自身の饒舌により、または、私の作家的観察眼で、ほとんど全部、私は、摘《つま》み上げて、蒐集して、分類して、ちゃんと整理が出来上っているのである。
では、何だってここに希臘《ギリシャ》の一青年武官をこんなに問題にしているのか――と言うと、理由は簡単だ。この物語は、かれロジェル&ギャレを主人公とし、私を傍観者とする、瑞西《スイツル》の山中サン・モリッツの|冬の盛り場《ウィンタ・レゾルト》における、一近代的悲歌劇の筋書《シノプセス》だからである。
私は、主役の希臘《ギリシャ》人に関して既に多くを語った。
が、話の性質を決定する必要上、忘れないうちに、ここに前もってひとつ、断って置かなければならないことがあるのだ。
それは、このロジェル・エ・ギャレは、ウィンタア・スポウツを自分で享楽すべく聖《サン》モリッツへ来ているのでもなければ、そうかと言って、ただ騒ぎを見物するために滞在しているのでもないという不思議な一事だ。じゃあ何しに?――となると、これがどうも
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