第一、スキイが深く沈み過ぎるし、おまけに雪崩《なだれ》の危険がある。経験あるスキイヤアはこういう雪では決して遠くへ出ない。どんなに油と蝋《ろう》の利いたスキイでも、尖端に雪の山を押して折れるか、さもなければ全身埋没して動きが取れなくなる――呼び出し電話ばかり掛って来て、never どこへも行き着かない恋。年々|尠《すくな》くなりつつある Good Girls という型《タイプ》が、電話線の向端で標準国語を使っている。ちょっと見ると莫迦に有望なだけ、大いに注意を要する――とロジェル・エ・ギャレは説くのだ――第一、うっかり[#「うっかり」に傍点]してるうちに深く沈み過ぎるし、おまけに自ら感情のなだれ[#「なだれ」に傍点]を食う危険がある。つまり例の、泣きながら笑うようなことをいつまでも繰り返す、恋のヒステリイ発作だ。だから経験ある恋愛人は、こういう電話では決して遠くへ行かない。どんなに噪狂なダンス・レストランの「隅の卓子《テーブル》」ででも、または街路樹のさきが窓の下に揺れてるCOZYなアパルトマンの一室ででも、彼はただ「空っぽの恋愛」に埋没するだけで、どうにも動きがとれなくなるにきまって
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