も、これが初対面の挨拶なのである。もっとも私は、その後よく彼が、この「サン・モリッツの雪と近代の恋愛」という得意の題目で、到るところで未知の人と即座に交際を開始する手ぎわを見たことがあるけれど、何しろ、その時は最初だったし、それに、果して私にアドレスしてるのかどうか判然しなかったので、私は、彼に不愛想な一瞥を与えたきり黙っていた。すると、ロジェル・エ・ギャレは面白そうににこにこ[#「にこにこ」に傍点]して、勝手に私の横へ椅子を引いたのである。
これでも判る通り、このロジェル・エ・ギャレは百パアセントの希臘《ギリシャ》人なのだ。古来ぎりしゃは、どこの国よりも多くの独断家を産出した点で、哲学史上有名な民族である。そして、この種の独断家には、出来るだけ思いがけない場合に、出来るだけ思いがけないことを、例えば、同盟|罷業《ひぎょう》を討議中の労働組合総会の席上で、やにわにダフォデル水仙の栽培法を説き出したりなんかして、人をびっくりさせることも、その才能の一つとして公認されていなければならない。
水仙《ダフォデル》を手がけて最上の効果を期待していいためには、まず、排水の往き届いた、※[#「土
前へ
次へ
全66ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
谷 譲次 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング