の諸相と同じだという事実なんですが――如何《いかが》ですか、私に、それを証明する光栄を許して下さいますか。」
 ロジェル・エ・ギャレは、こんなようなものの言い方が大好きなのだ。
 その時、私達は、正面のタレスに揺椅子《ゆれいす》を持ち出して、ちょうど凍りついた夕陽の周囲を煙草のけむりで色どっていた。
 私たちの前には、枕のような雪の丘が、ゆるい角度をもって谷へ下りていた。高山系の植木が、隊列を作って黒い幹を露わしていた。その、雪を載せた枝の交叉は、まるで無数のハンケチを干しているようだった。雪を切り拓いた中央の小径《こみち》を、食事に後《おく》れたスポウツマンとスポウツウウマンとが、あとからあとからと消魂《けたたま》しく笑いながら駈け上って来ていた。スキイを皮紐《ストラップ》で縛って肩へ担いだ彼らの、はあはあ[#「はあはあ」に傍点]いう健康そうな息づかいが、私達のいるところまで聞えていた。ほ・ほう! と、しきりにうしろの者を呼ぶ声が薄暮に山彦した。雪は残光に映えて藤紫《ラヴェンダア》に光っていた。山峡には、水蒸気のような霧が沸きかけていた。そこへ、粗い縞《しま》を作って、町の灯が流れは
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