Say, was it a dream !?
[#ここで字下げ終わり]
 ――ほかの国では、誰も、雪になんぞ特別の注意を払うものはあるまい。雪は、要するに、あんまり有難くない白い軟泥の堆積で、あとで、もっと有難くない茶色の街路を作り出す原因に過ぎないとされてる。が、それは、雪がすくないから研究の機会も必要もないまでのことで、瑞西《スイツル》なんかでは、この「冬の地面の外套」を、あらゆる楽宴の必須条件として、皆はそれを見守り、試験し、一種表現の出来ない、したがって外部の人には想像もつかない心遣いをもって愛撫さえもしているのだ。第一、雪が降り出すが早いか、それは非常な心配のこもった眼で看視される。純な白い雪片が、大きく穏かに、そして盛んに落ちて来ると、人々は、二、三日うちにすべてのスポウツ慾が満足されることを知って、歓喜の声を上げる。が、もしそれが、うすい、速い、氷雨《ひさめ》に似たようなものであれば、これは徒《いたず》らに、今までの積雪の表面に余計な硬皮《クラスト》をかぶせるだけの役にしか立たないから、折角の舞台を滅茶々々にされて、みんな恨めしげに空を白眼《にら》んで祈るだろう。スケイトやとぼがん[#「とぼがん」に傍点]橇《そり》やカアリング――氷上ボウルスとでも謂《い》うべきウィンタア・スポウツの一種で、三十から四十|封度《ポンド》ある丸い石を氷のうえに転がして、TEEと呼ばれる三つのうち中央の円内へ、出来るだけ早く、そして多く入れようというゲイムだ――は、充分の雪量と適度の寒ささえあれば、雪の質にまであんまり八釜《やかま》しいことを言う必要はない。が、スキイとなると大いに雪を選ぶ。スキイヤアスの一番憎むのは、時ならぬ雨だ。どんなに立派な雪でも、半時間の雨で台なしにされてしまう。単に快走を妨げるばかりでなく、雨を吸った雪が一旦凍ったが最後、そこには、今まで存在しなかった現実の危険が潜み出すからである。
 そこで、ウィンタア・スポウツの眼で見た雪の種類。
 粉雪・柔かい雪・固い雪・毀《こわ》れない外皮《クラスト》・こわれる外皮《クラスト》・それから、これは雪じゃないが、地方的にFOEHNと呼ばれる不時の温風――これらの区別が、ロジェル・エ・ギャレによると、近代恋愛の種々相《フェイゼス》と完全に一致すると言うんだから、確かに一つの「|叫び《スクリイム》」だ。

    
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