花園が拓《ひら》かれたでもありません。国境一つで全然地質が違うと見えます。このことは始めから判っていたのですから、七割税には、すこしも保護政策の意味は含まれていないのです。ただ伊太利《イタリー》の切花業者と園丁から長年の生活を奪って、そのかわり、彼らに、多くの悲劇と家庭の解散を与えたに過ぎません。あり余る者から取るつもりで、結果は、無いものをますますなくさせる。じつに合理的な政策です。が、伊太利だって文句は言えません。内政干渉と来ますし、それに、交換条件でも持ち出されちゃ嫌ですからね。どこでもそうであるように、ブルジョア政府同士の交渉の前には、郷土的利福なんか、花だろうが何だろうが、どんなに蹂躙《じゅうりん》しても構わないのです。そこでつまり、両方の政府が仲よく笑い合って、ここら一帯を荒土にしました。ちょうどあの辺が、先頃まで一番素晴らしかった花畠のあとです。』
 窓へ伸ばした彼の指先で、シシリイ島人らしい半黒の一家族が、スウプ汁から驚いた顔を上げた。
 それから私は、彼との食卓で、伊太利《イタリー》バムウスを舐《な》めて、赤|茄子《なす》入りのスパゲテは、いったいいかにして肉刺しへ巻
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