まった。車輪の下に鉄橋が横たわり出したのだ。
 彼女は、眉を下げた。そしてその横暴な音響と闘って、言語を、私達の聴神経まで届けるために、直ちに、可笑《おか》しいほどの努力に移った。
 咽喉《のど》を紫にして、彼女は、あとを絶叫した。
『――綽名《あだな》をつけましょう! 三人の間で。ベニイ!――ベニイと。私はいつも、自分の創造力を自慢しているのです。これなら、判りっこありません。聞えますか。ベニイなら、大・丈・夫! ベ・ニ・イ!』
     5
 彼女の大声が終らないうちに、鉄橋が済んでしまったので、最後の「ベ・ニ・イ!」は、大音響の直ぐ後の静寂に残されて、喧嘩のように、突拍子もなくひびいた。
 私達は、真夜中を忘却して、笑った。
 すると、彼女は、演説者のように腰骨へ両手を置いて、突然、前後とすこしの関係もない奇怪な声を、詩の一節のように発し出したのである。
『Meglio vivere un giorno da leone !, che cento anni da pecora ――どなたか、新しい二十リレの銀貨をお持ちですか。お持ちでしたら、出して、読んで御覧なさい。それは、 
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