ファシスト政府の鋳造したもので、裏に、ベニイの言葉と伝えられる、こんなモトウが迎彫ってあります――めりよ・びいぶる・うん・じょるの・だ・れおね・け・つぇんと・あに・だ・ぺこら――羊として百年生きるよりも獅子として一日生きたほうが増しだ。何という、腕力的な野心でしょう! 何という旺盛な積極的人生観! しかし、すこし非科学的なようですね。すくなくとも、こういう英雄主義は、現代のものではありません。文句自身は、ベニイ個人の場合に限って、大出来でしょう。が、貨幣は、その性質として、誰の手にでも渡るものです。そして、この叱咤《しった》は、羊のように弱い人にとっては、すこしばかり強過ぎるのです。つまり、あまり露骨にファシスト的だというので、それは、一般に評判の好《よ》くない新貨ですが、あなた方は、どうお考えですか。』
『私は、勇敢で面白いと思います。』
『それは、あなたが青年だからです。いかがですか。また、ベニイに会ってみたくはなりませんか。ベニイに面会するためには絹高帽《シルク・ハット》と、モウニング・コウトと、閣下《ユア・エキセレンシイ》という敬語と、些少の礼譲と、多分の微笑をさえ用意して行け
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