。
『東洋人ではありますまい。しかし、彼の顔には、純粋の白人らしくない暗示が見られます。』
『と言うと、どういう意味ですか。』
『彼の奉ずる力の讃美には、もっと太陽に近い土地の、砂漠と大植物との、黒色の哲学が潜んでいるような気がしはしませんか。』
『立派にあり得ることです。伊太利《イタリー》、西班牙《スペイン》、葡萄牙《ポルトガル》などの、南|欧羅巴《ヨーロッパ》の羅典《ラテン》系文明が、近世に到って一足遅れたのは、奴隷として輸入された黒人の血が、雑婚によって吸収されたためだと言う説があるくらいですから。血統のどこかに、飛び離れた異人種を持つ家は、往々にして巨人を出すものです。』
『爪を見れば、判るそうではありませんか。』
『しかし、ムッソリニという名は、古い伊太利名です。「ムッソリニ」は普通名詞のモスリンから転化したもので、つまり、彼の家は、職業世襲時代に、代々モスリンの織匠だったのでしょう。』
『そういうことは、私の国の日本にもあります。ちょうど、ムッソリニと同じ語源に、織部《おりべ》というのがある。』
『とにかく、先刻《さっき》私が言ったように、彼は誰にでも会います。亜米利加《ア
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