くないという旅行者が出て来ることを、私は、ひそかに望んでいたのです。』
『なぜそのことが、そんなにあなたの関心を強いますか。』
『私の性格が、すべて反対を好むからです。全く、ムッソリニは誰にでも合いますし、また誰でも、外国から来た人は、彼に会いたがるようです。どうして、あんな立憲政体の変態者が、こんなにまで反動主義者の世界的賞讃を博するようになったのでしょう? きっとそれは、彼が社会主義への裏切者であるからに決まっています。私には、ほかに正しいと思われる答案が発見出来ないのです。野蛮なほど自信と精力の強いブルジョア政治家なら、どこの国も、彼以上の紳士的悪漢で一ぱいで、それぞれ持て余しているはずではありませんか。伊太利だったからこそ、彼も、羊の群の獅子として、その自己集権慾を満足させることが出来たのでしょう。要するに、彼は、人気を取っていないように見せかけて人気を浚《さら》ってしまう、顔の怖いお上手者に過ぎないのです。私達には何らの関係もない、古風な、過失的存在です。』
『僕は、彼は東洋人ではないかと思う。』
ルセアニア人が、逡巡《しゅんじゅん》しながら、割り込んだ。彼女が、受け取った
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