シニョオル・ムッソリニに面会を申込もうとしている――そうでしょう?』
『何らの根拠もない、恐るべき断定だ!』
 私は、ルセアニア人に、援助を求める眼をやった。しかし、彼は、彼の|嗅ぎ塩《スメリング・ソルト》といっしょに非常に多忙だった。私は、単独で彼女に対抗しなければならなかった。
『一体誰が、そんなことを言いました。』
『読心術《テレパセイ》です。私は、ノルマンディの漁村で、不思議な力を有する一人のお婆さんから、読心術《テレパセイ》の手解《てほど》きを受けたことがあります。』
『おやおや? あなたの裸体に対する僕の心持だけは、読まれると困る瞬間がある。』
 ルセアニア人が、彼の楽しい塩壜の上から、声を持った。
『どうぞ茶化さないで下さい。ですから、私には、大概の人が、その希望も、その個人的難境も、一眼で判断出来るのです。そこで、当面の問題へ帰るとして、第二のあなたは、ムッソリニに会ったら、政治哲学上の議論などを吹っかけることは極度に排斥して、飽くまでも、亜米利加《アメリカ》産の訪問記者手法で往こうとしているでしょう。つまり、専門の智識なんかすこしも持ち合わせていない、無邪気な顔をして
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