、この狭いコンパアトメントを今にも爆破しようとしている、窒息的な彼女の体臭を、私がそう誤認したのかも知れなかった。
 暫らくは、快活な汽車の奏楽と、緑いろの半暗電灯だけの世界だった。
 彼女は、自分の乳首の検査に熱中していた。が、直ぐ、彼女の顔が、私の方向へ起き上った。
『あなたは、新聞記者《ジョナリスタ》ですね。』
 驚きを隠すために、私は、答える前に、自然らしく耳の背部を掻いた。
『もしそうだとしたら、あなたはどうしてそれを御存じですか。』
『簡単なことですからです。ヴァンテミイユの旅券係のまえで、私は、あなたの直ぐうしろに立っていました。』
 これは、じつに満足な解答である。私は、そう言って笑い消すことによって、この話頭の転化を計ろうと望んだ。が、結果は、かえって彼女の追求を招いただけだった。なぜと言うに、彼女は、急に非常な秘密を打ち明ける人のように腰をずらして、出来るだけ浅く寝台に掛け直したからだ。
 そして、緑色の舌の先で、下唇を舐《な》めた。
『あなたはジョナリスタです。その他、私には、あなたに関するいろいろなことが判ります。第一、あなたはこれから、羅馬《ローマ》へ行って、
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