二つの電灯が一つずつ点《つ》くように仕掛けしてあって、釦鈕《スイッチ》を捻ると、白い光りが自動的に消えて緑いろのが生き出すのだった。
こうして、室内を濃い緑色に落して置いて、彼女は、その裸体を元の位置に返した。
空気は、青苔の細胞で充満された。その密度を通して見る彼女の皮膚は、日光を知らない深海の海草のように、不気味に濡れていた。
彼女は、脚を組んで、両手を膝へ挟んだ。
『これでいいでしょう。緑いろの光線は、正しいことを考えるのに相応《ふさわ》しいものです。』
私たちは、一時紛失した落着きを、すこしずつ取り戻して、国際裸体婦人同盟員の示威運動が、あまり邪魔にならなくなり出した。
それでも、ルセアニア人は、先刻《さっき》から、ZIPの手鞄を開けて取り出した|嗅ぎ塩《スメリング・ソルト》を、しきりに鼻へ当てていた。これは、気付けのためである。彼は、それを、まだ続けていた。
汽車は、レイルを噛んでは、うしろへ吐き出した。外部の重い闇黒《くらやみ》のなかで、もうジェノアが近づいているに相違なかった。どこかに港のにおいがすると、私は思った。しかし、それは、過度の熱気に一層発散し出して
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