女は、俄かの喜悦を示すために、外套の襟を抱き締めた。そして、前屈《まえかが》みの姿勢を採って、私達二人を聴衆に、こういう驚くべき秘密結社の暴露に着手したのである。
『明らかに、あなた方は、まだ、国際裸体婦人同盟に関して、何らお聞きになったことはないと見えますね。女でさえ今は裸体を主張しているのに、男の方が、靴下一枚でいたって、それが何でしょう? 国際裸体婦人同盟は、アントワアプに本部のある最左翼解放運動の前線で、言わばその独立活動隊です。会員は、目下|欧羅巴《ヨーロッパ》じゅうに七十人あまりですが、そのなかには、あの「|幸福な白痴《ハッピイ・フウル》」を書いた倫敦《ロンドン》の劇作家モウド・ハインもいます。巴里《パリー》の雑誌記者が三人います。リデルヒブルグ大学の生物学教授シャンツ夫人もいます。最近では、ワルシャワ歌劇団のソプラノ花形のリル・デ・メル嬢と、ルツェルンの美容師で、六十七歳になるお婆さんとが加盟しました。そのほか、詩人、労働運動者、音楽家など、勿論みんな智識階級の女ばかりです。』
 彼女は語を切って、自分は何も国際裸体婦人同盟の宣伝をしているのではないと、私達を誤解から切断
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