。
『何て揺れる汽車でしょう!』
こうして彼女の全身は、私達のコンパアトメントのものとなったのだ。それなのに、彼女は、そこにそうして存在を延長していていいという私たちの許可を、沈黙の眼で促しているのである――。
私は、必要を認めて、同室者の意見をも兼ねた。
『私達は、すこし神経質なのです。お互いに鼻を見ては笑い、つぎに悲しそうに考え込んで、果ては寝台を相手に大声に喚《わめ》くだけのことです。居らしっても、面白いことはあるまいと思います。』
『私は、このままここにいていいのでしょうか。それとも、もう一度、あの車廊の遊動木を渡って、自分の部屋まで旅行しなければならないのでしょうか。』
『御随意に。』
私はうしろへ反《そ》って、両脚をぶらぶらさせた。そのほうが、汽車の速力を助けるように思えたからだ。
『しかし、ご覧のとおり、私の同室者は、もう靴を脱いでしまって、靴下だけで床を踏んでいるのです。それさえお差支《さしつかえ》なければ――。』
すると、彼女の表情を、私への軽侮が走った。この私の紳士性は、彼女の憐愍《れんびん》を買うに充分だったのだ。
『何という興味ある話題でしょう!』
彼
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