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 すると紳士は、待っていた救助船が現われたように、そしてまた悪いところを見られたように、何かわけのわからないことを呶鳴《どな》りながら、いきなり力まかせに女の手を振り解いて、あわてて横町の闇黒《あんこく》へ逃げ込んでしまいました。が、走り出す前に、彼は「23」のポケットへ何か量《かさ》ばったものを押込んで行ったのです。女はただ卒倒していただけでしたから、「23」がその鉄板のような脚を抱いて自分の部屋へ担ぎ込むと、間もなく意識を快復しました。そして同時に、救護者の若いシリア人に恋を感じたと言います。いや、すくなくとも、そう彼女は宣言したのでした。
 女はコカイン中毒患者でした。謎の脚は、長年そこへ注射針を刺して来たためにそんなにも皮膚が固化した現象でした。これは、どの医者に訊いてもよくある、さして珍らしくない事実ですが、より[#「より」に傍点]いけないことは、彼女はこの博奕場の幽霊の一つで、あの低音のルウレットの唸《うな》りを聞くことなしには生きて往けない組なのです。彼女にとって、ゲイムに勝つことはコカインを買うための必要事でした。が、それがどうにもならない時は、売春の目的でキャジ
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