ゥら理想《アイデアル》印しの妻楊枝《つまようじ》を輸入したのです。そのために青煙突《ブルウ・ファネル》のやくざ船をすっかり傭船《チャアタ》しました。うい・むっしゅう! あなたはあの妻楊枝を満載した英吉利《イギリス》貨物船の編成隊が不意の光線に追われた油虫の家族のように仲の好い一列を作ってダンジグ港へ投錨した時の華美な光景を御存じですか?――そして、あの男の足の小指は、赤い蘇国《そこく》毛糸の靴下のなかで下へ曲がってるのです。OUI! 両方とも――なぜこんなに詳しくあたしがあの人のことを知ってるだろうってびっくり[#「びっくり」に傍点]してらっしゃるのね。だって、あの人はあたしの良人《おっと》ですもの。Tut−tut !』
 私の眼が高処恐怖病患者と同じ怯懦《きょうだ》さで広い博奕場のあちこちへ走った。が、私も負けてはいなかった。やがて私は、すこし向うの卓子《テーブル》に、鼻の穴から毛の生えてるリヨンの老生糸商と、生水・ENOの果実塩・亜米利加《アメリカ》産|肉豆※[#「くさかんむり/「寇」の「攴」に代えて「攵」」、第3水準1−91−20]《にくずく》・芽玉菜《めたまな》だけの食養生を厳
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