轤キることによって辛うじて絵具付《ペインテド》シフォンの襞《ひだ》着物を着れる程度に肥満を食いとめている、安ホテルの椅子みたいに角張ったあめりか女とのあいだに、ルウレットに忘我して顔を真赤にしてる私の妻を見つけて、急いでそのことを言い出したのである。
『彼女《あれ》はこのモンテ・カアロのばくち[#「ばくち」に傍点]にかけてはじつに天竺鼠《てんじくねずみ》のように上手に立ち廻るのです。御覧なさい。ペイジ色の蜜柑《マンダリン》がすっかり上気してまるで和蘭《オランダ》のチイス玉のようでしょう。二つ光ってるのは黒輝石の象眼ではありませんよ。あれは単に彼女の眼です。無理もありません。今夜は朝までに三千|法《フラン》勝って坂の上の駒鳥屋《ロパン》で私に一九三三年型の純モロッコの洋杖《ステッキ》と、一流の拳闘選手が新聞記者に会うときに引っかけるような色絹の部屋着を買ってくれようと言うんですからね。いま一生懸命のところです。』
 こう言って、気がついて振り返ってみると、相手はもうそこにいなかった。この女は波斯《ペルシャ》猫である。だから映画のなかの人物のように音もなく行動するし、たとえモナコ名所|犬首
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