明日になろうとしていることを私は歯科医の腕時計で読んだ。
そして独逸《ドイツ》人に言った。
『僕はオテル・エルミタアジュのあなたの部屋の番号を知っています。三十六号でしょう? 自分は妻と別々の部屋を取る習慣だなどとは仰言《おっしゃ》らないでしょうね。』
ところが彼の驚愕が私を驚愕させたのである。しかも彼のは覚えのない罪を責められる人が不思議そうに示す種類の驚愕だった。
『妻ですって? あなたは人違いをしている。悲しいことだ。私は結婚するほど旧式でもないし、オテル・エルミタアジュはちょっと外部から見たことがあるだけです。』
私はじぶんが単なる即席の思いつきでこの個人的な会話を切り出したのではないという立場を守護するために、すこしばかり顔を赤くして粘着《パアシスト》した。
『あなたに関する僕の知識はそれだけではないのです。僕はあなたがコロンの製鋲《せいびょう》会社の社長であることも、亜米利加《アメリカ》から妻楊子《つまようじ》を輸入した本人であることも、そしてそのために何艘の英吉利《イギリス》貨物船を傭船《チャアタア》しなければならなかったか――すっかり知っているつもりです。』
『じ
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