セックス州の代言人《ソリシタア》や、絶えず来年度の鉄道延長線の計画を確かな筋から聞き込んだと吹聴しているプラハの土地利権屋や、コルセットの留金《とめがね》が引き釣ってきっと靴下の上部に筋切れがしてるに相違ない巴里《パリー》下りのマドモアゼル――でみ・もんでん――や、南|仏蘭西《フランス》の汽車中に英語の掲示がある・ないで今大議論を戦わしている亜米利加《アメリカ》の老嬢たちや、こういう夜と昼をはき違えた群集がめいめい他人の言葉を押し返してそれに勝つ必要上ほとんど絶叫に近い大声を出しあっていた。そこにはまた交通巡査のように冷静な猶太《ユダヤ》人の給仕長があった。通路に屯営《とんえい》して卓子《テーブル》の空《あ》くのを狙っている伊太利《イタリー》人の家族|伴《づ》れがあった。そのなかの娘は待ってる時間を利用して立ちながら絵葉書を書いていた。銀盆に電報を載せたボウイが「いつものテエブルにいるいつものムッシュウ」のところへ走っていた。伊太利《イタリー》人の娘と衝突して両方が笑った。ここから一つの恋が噴出すべきはずだと私は観察した。這入って来る人ばかりで誰も出て行く人はなかった。ちょうど今日から
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