士官学校生徒のような、身体《からだ》の輪廓に喰い込んだ水色の男装をしていた。それはあの護謨《ごむ》糸で自動的に中箱の引っ込む仕掛けの、ミラノ製の Italianissima 燐寸《マッチ》のような、非常に役立つ、寸分の隙《すき》もない効果だった。夫人によれば、近代社会の大きな間違いは、男女の性別を不可侵の事実として、これにだけは手をつけようとしないところにあった。なぜか? われわれは生理学を矯正して優生学を案出したではないか。そのほか大学の講座はあらゆる反逆の科学で重いのだ。研究室の窓からは既に手のつけられないほど増長してしまった人造人間が二十三世紀の言語で通行の女にからかっている! うんぬん・うんぬん・うんぬん。
 ヴィクトル・アリ氏は鳩撃ち大会が済むまでは禁酒していると言ってグラスを無視した。そして必ず一度灯にすかして見てから水を飲んでいた。
 キャフェは博奕場のこぼれで溢れていた。私達の隣のテエブルには、地図で見ると上の端のほうに当る国から来たらしい二人の青年が、皮肉な眼をして「金髪《ブロンド》」を飲んでいた。スウプのなかへ麺麭《パン》を千切《ちぎ》って浮かすことの好きなミドルエ
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