を結んでいた。すると私の耳にちょっと静寂が襲って来た。そのなかで一つ上釣《うわず》った女の声が走った。
『Rien n'pa plus !』
女は台取締人《クルピエ》の顔を見て言った。彼女はいまの廻転《タアニング》に負けて無一文になったのだ。この頃は「運が背中」で、今夜でとうとう財産のすべてを失《な》くしてしまった。彼女は早口にそう口説《くど》いて卓子《テーブル》の人の同情を求めているふうだった。
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まるけ・むっしゅう!
まるけ・むっしゅう!
ら・ぼうる・ぱっす!
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眠そうな顔と声の台取締《クルピエ》が、こう呟《つぶや》きながら片手で円盤を廻して同じ手で「丸薬《ピル》」をはじいた。
『Un cochon――豚!』
女は卓子《テーブル》を叩いて起《た》ち上った。みんな知らん顔して盤から眼を放さなかった。女は出口へ急いだ。彼女はこれからどうするだろう! きっと今着ているあのおれんじ色のドレスを「木の枝へ懸けて」――質に置いて――帰って来て、その金でもう一度運命を試験するに相違ないと私は思った。この月夜の果樹園のような空気を呑んで陶酔を覚え
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