った。私と彼女は、理髪師のようなつめたいにおいを発散させながら礼装の肩を較《くら》べた。私には固い洋襟《カラア》が寒かった。
カフェ・ドュ・パリから音譜が走り出て来た。白絹を首へ巻いた紳士が、その白絹を外してシルクハットと一しょに入口の制服の男に渡してるのが芝居のように見えた。女たちは金銀のケエプをしっくりと身体《からだ》に引き締めて、まるで燐《りん》の鱗《うろこ》を持った不思議な魚のようだった。彼女らの夜会服の裾は快活に拡がっていて、そうして背《うし》ろの一部分は靴にまで長かった。流行は絶えず反覆するものであると賢人が言った。あれほど批評の声のやかましかった短袴《スカアト》時代はすでに過去へ流れて、世はスカアトだけがヴィクトリア朝へ返ったのだ。しかし、やはり膝頭の見える女もいた。が、今もいうとおり流行は絶えず繰りかえすものである。だからこれは、遅れているのではなくて、現下の長袴《ジョゼット》流行の一つ先を往ってるのだ。つまりこのほうが早いのだ。とは言え、その敵《ライヴァル》に当る長袴《ジョゼット》連中はそのまた短袴《スカアト》時代の次ぎに来るであろう長袴《ジョゼット》時代を生きて
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