y部の酒台の向側でカクテル壜《びん》を振らなければならなかったのです。彼が急死したのは、この選挙演説のように激しい振子運動がふだんからあんまり丈夫でなかった彼の心臓へ致命的に影響したのだと、倶楽部の医者が啣《くわ》え葉巻で走り書きした死亡診断書にありました。あとの私のことは多分あなた方のほうが詳しいくらいでしょう。』
 私はあわててこういう言葉を挿入する必要を感じた。
『言うまでもなく、近代の新聞はすこし五月蠅《うるさ》くなりかけています。あなたなども随分個人的に立ち入った報道をされて御迷惑なすったことでしょう。』
 夫人は指を鳴らして、この私のお世辞に対する喜ばしき受領証の笑いに換えた。
『事実は私は女秘書聯盟の書記になって午飯《ランチ》の休憩時間を一時間増すための全国的運動を起してそのかげに隠れて加奈陀《カナダ》総同盟の最左翼と結託しようか、それともハリウッドへ行って映画女優になろうかとずいぶん考えたのです。で、結局、ハリウッドへ出かけてメトロ・ゴウルドウィンの配役監督に面会したのですが、海水着に日傘をさして腰で調子を取って歩く試験にも、出来るだけ情熱的に接吻する試験――相手はその
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