K問服へ聖《サン》エミリオンの葡萄酒でその頃理論的に評判のよかったサンジカリズムの絵を描いてくれました。鉄鎚《てっつい》は鉄鎚で集まり、車輪は車輪であつまり、あちこちに調べ革と木靴の模様が散らばっていて、ちょうどお尻のところに聖書が一冊描いてありました。だからそれを着てグラン・ブルヴァウルを歩くことはどんなに私を楽しませたでしょう! キャフェ・ドュ・ラ・ペエ! あすこらの椅子に腰かけると、私はたちまち聖書をお尻に敷いてるのです! 彼はまた手の平に隠れる豆ヴァイオリンを持っていて、夜はそれでTOSCAの愁嘆を弾いて私の涙を誘うのでした。そうして彼は私を伴《つ》れて亜米利加《アメリカ》へ渡りました。あめりかでは、私たちは私たちの智的さを秘密にして帰化することに成功しました。スワンという名はこうして出来上ったのです。彼は、忙しがって衝突して首の附け根を折るウォウル街の株屋や、地下鉄で自ら進んで「|春の鶏《スプリング・チキン》」に足を踏まれたがる「神呪された胡桃《くるみ》」の多いのを目的《めあ》てに、紐育《ニューヨーク》で接骨医を開業しました。が、まずその電気広告費を稼ぐために、彼は毎日違法倶
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