瘁tにしていた角砂糖と薔薇のサンドウィッチを口へ入れようとした。私が心配して注意した。
『小枝を切って絵具の溶液へ差しておくと、花がそれを吸い上げて自働的に着色されます。ニイスあたりでは、そういう薔薇をトルキスタンの花崗岩《かこうがん》帯で発見された珍らしい変種と称して町かどで売っています。おもに謝肉祭の花合戦に恋人同志が投げ合うのですが、首と手足の太い英吉利《イギリス》女なんかがそのまま故国《くに》の従柿妹《いとこ》へ郵送出来るように、一、二輪ずつ金粉煙草《ゴウルド・フレイクス》の空缶へはいって荷札までついていて、値段は五十|法《フラン》です。なかには、物を舐《な》める習癖のある赤ん坊はこれで自殺出来るほど、着色液の性によっては有毒なのがあります。その一種かも知れませんから、お砂糖に挟んで食べるのは中止なすったほうがいいでしょう。』
これが私の妻を噴き出させた。彼女はH・Pとロココ風に略字《モノグラム》のつながった銀の匙《さじ》で私の手の甲の静脈を叩きながら、古代ヘブライ語で私をたしなめたのである。
『何を言ってらっしゃるの? 造花じゃありませんか、これ。』
そして、自分でその花
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