タでしょう! おまけに彼女らは、得態《えたい》の知れない蛮語しか話さない頸の黄色い一羽の鸚鵡《おうむ》を貰うためには、最上等の無煙炭みたいに紫いろの熱気を吐くコンゴウ生れの火夫とでもその船の碇泊中同棲することを辞しないのです。そのうえ、毎朝早く市場へ人参と夜来の露と黒土のにおいを運んでくる近郊の農夫達へ、彼女らは窓から新聞に火をつけて振るのです。夜明けの闇黒《あんこく》は一そう暗いものですから、こうする必要があるのですけれど、彼女らは「赤い警鐘」紙も「労働と自由」新聞も火をつけて窓から振るために存在するのだと思ってるのです。そうするとそれを見ておいて、市場の帰りに百姓たちが彼女らの部屋を訪問します。そして彼らの馬鹿力の愛撫によって彼女たちの午後いっぱいの眠りがはじまるのです。歴史的にブルジョアのものと定義されている怠惰・信心・不潔と安逸への強い執着以外、そこには何もないのです。この女達は無産者のなかでの貴婦人であると私は結論しました。同時に私は、黒海地方特産の美容用れもん[#「れもん」に傍点]をしこたま鞄へ詰めて巴里《パリー》へ出ました。』
 ここでフランシス・スワン夫人は玩具《おもち
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