出してもう手っ取り早くFINISにしちまうとして、ちょうどここんとこへ、問題の怪異船がるしあ・もれの号が入港して来たのだ。
 もしあの時、風がこの船をリスボン沖で素通りさせたら?
 そうしたら、第一この話はなかったにきまってるし、リンピイはいまだにほるつがる[#「ほるつがる」に傍点]りすぼあ港の満足せるリンピイだったろうし、ことによると僕も、いまもって支那公《チンキイ》ロン・ウウの嗜眠病的仮存在のままでいたかも知れない。
 思えば、十字路的な出現であった―― this ガルシア・モレノ!
 なぜって君、一つも売れないのだ。何がって君、僕のしっぷ・ちゃんがさ。あれだけ飛行するように売れてた、そして、ほかの船ではやはり立派に売れてる――その売れる理由はすでにわかった――同じ品物が、このガルシア・モレノ号でだけはうそ[#「うそ」に傍点]のようにちっとも捌けないのだ。誰ひとり手を取って見ようとするものもない。」毎日通ってるうちに、しまいには船中てんで[#「てんで」に傍点]僕を相手にしないで、振り向く者もなくなった。この、売れないのは僕のほうばかりじゃなく、リンピイの「女しっぷ・ちゃん」なんか
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