スところで、いわゆる山の手のもつ閑寂な住宅地気分とは極端に縁が遠いが――にちかちか[#「ちかちか」に傍点]する devil−may−care の紅灯と、河港をへだてて、むこう側の山腹、慈悲《ピエダアレ》の村に明滅する静かな、家庭的な漁村の灯とが、高台同士で中空に一直線にむすびついて、へんに泪《なみだ》ぐましい人生的対照をつくり出していた。こんなふうに、桟橋広場の一ぽうが胸を突く急坂になって、そこを昇り詰めた一帯がバイロ・アルトの私娼区域――と言っても、定期的に非公式の健康診断があるんだから、政府の黙許を得てる半公娼と称すべきかも知れないけれど、それがひどく不徹底なものだったし、その半公娼に伍して倍数以上の私娼が混入してごっちゃ[#「ごっちゃ」に傍点]になっていたので、やはり大きな意味では、そこら全体を私娼窟と呼んでよかった。じっさい一くちにばいろあると[#「ばいろあると」に傍点]といえば、それは直ちに「坂の上の娼家横町」を語意していた――そして、そこの白っ茶けた建物の窓から、朝夕の出船入船の景色が、まるで大型活字の書物の一頁を読むように詳細に一眼だった。つまり、リスボンの出入港は、海事
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