フ湾《ガルフ》――毎晩徹夜して、「黄色い貨物」のように忠実に僕はその渦紋の軸に立ちつくしたものだ。
そうすることによって、僕は完全にLISBON港の|お客《ゲスト》になってたのだ。波止場のお客さんと言えば、いでたちも君、大概きまってよう。何世紀か前には地色の青だった、油で黒い火夫の仕事着に、靴は勿論片ちんばでなければならない。それに、桐油引《とうゆび》きの裾長《すそなが》外套――岬町《ケイプ・タオン》印し――しかし君、煙草だけはどうも他のは喫《の》めない。なんて、Perfumes de Salon, 亜弗利加《アフリカ》あるじぇりあ製のあれだ。あいつを茶色紙にこぼして、指先で巻いて端を舐《な》めながら、桟橋のでこぼこ[#「でこぼこ」に傍点]石垣に腰かけた僕の視野は、蔑晩もつづいて「古いインクの展開」とその上の植民地風だった。
SHIP・AHOY!
夜も煙りを吹いて船が出はいりして、何本もの航路が縦横に光っていた。波止場のそばのテイジョの河口は、青く塗った大帆前船《パルコ・デ・ヴェイラ》の灯で賑《にぎや》かだった。この船は、「|大西洋の真珠《ペルラ・ド・アトランチコ》」と俗称される
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