レんの波止場だ。
 この、表面白っぽく間の抜けた底に、どこか田舎者めいた強情な狡猾さがぷうん[#「ぷうん」に傍点]と香《にお》って、決してこれだけが全部でないことを暗示《ヒント》していた。果して夜! You know, 闇黒は桟橋を物語化し、そして夜の波止場は紳士を排斥する。昼間の Seemingly に平和な自己満足のかわりに、そこには一変して酒精分の暴動《ライオト》だ。平《たいら》な地面に慣れない水夫達の上陸行列だ。海の口笛と、白い女の顔だ。しなり[#「しなり」に傍点]のいいマニラ帆綱《ロウプ》のさきに、鉄鋲《ナッツ》を結びつけた喧嘩用武器の|大見せ場《デスプレイ》だ。放尿する売春婦《プウタ》と暗い街灯の眼くばせだ。船員の罵声と空地の機械屑だ。飛行する酒壜と、人に肩をぶつけて歩く海の男たちの潮流。問題《トラブル》を求めて血走ってる彼らの眼。倉庫うらに並立する四十女の口紅。いつからともなく棄てられたまま根が生えてる赤|汽缶《ボイラ》のかげに、銀エスクウド二枚で即座に土に外套を敷く人妻。草に隠れてその張り番をする良人《おっと》。SO! あらゆる無恥と邪悪《ヴァイス》と騒擾《そうじょう》
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