B
これが毎晩である。桟橋と沖を往復する謎の女群。熟練を示すその沈黙と速度。At last, 大MYSTERYは僕のまえに投げられた。何のための毎夜のとりっぷ[#「とりっぷ」に傍点]? 女漁師? Absurd, 密輸団? Maybe.それにしても、何と祝福すべき小説――作者ライダア・ハガアド卿――的効果とシチュエイション!
山《サスペンス》もある。「|はてな《バッフル》!」もある。|大通り《ポロット》も|小みち《カウンタ・プロット》も充分ある。こいつにちょいと「|予期しない捻り《アンエクスペクテド・タアン》」さえ与えれば、ジョウンス博士主宰通信教授文士養成協会――名誉と財産への急飛躍! はじめて万人に開かれた成功の大秘門! 変名で有名になって親類知己をあっ[#「あっ」に傍点]と言わせ給え!――の「必ず売れる小説を作る法」の講義録にぴったり[#「ぴったり」に傍点]当てはまって、どうだ君、そろそろ面白くなって来たろう。NO?
まだまだこのあとが大変なんだ。
YES。港だから、そら、毎日船がはいるだろう。船乗りってやつは、女を要求して――たとえばマルガリイダの家のテレサなんかを目的《めあ》てに――やたらに上陸をいそぐものだ。が、上陸させちまっちゃあ話にならない。いたずらに老七面鳥マルガリイダをほくほく[#「ほくほく」に傍点]させるばかりで、何らわが新事業家リンピイの利得にはならないから、そこで彼らの上陸の前夜か、もしくは過半上陸しても不幸な当番だけ居残ってるところへ、暗いいんく[#「いんく」に傍点]の海を桟橋から一|艘《そう》の小舟《ボウテ》がこいで来て横づけになる。女肉を満載したボウテ! すると、訓練ある沈黙と速度をもって、五、六人の女隊が、アマゾン流域特産のぽけっと[#「ぽけっと」に傍点]猿みたいにするする[#「するする」に傍点]と船腹《サイド》の縄梯子《ジャコップ》を這い上って甲板へ現れる。これが真夜中の船の女客――船上商人《シップ・チャン》リンピイがひそかに駆り集めて来た「商品」だ。が、これも、昼間の市民としては、女中や場末の売子をしてる女達――相当若いの・かなり若いの・ほんとに若いの・少女めいたの・肥ったの・瘠《や》せたの・丸顔の・面長《おもなが》なの・金毛の・黒髪の――。
それらが次ぎつぎに船の手すりを跨《また》ぎながら、細い、太い、円い、めいめい色
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