ェ、赤白く光って浮かんだ。やっぱりみんな錨《いかり》を下ろすが早いか女のところへ上陸したに相違ない。ガルシア・モレノ号は僕の前にたったこれだけの人数《にんず》だった。が、勿論このポケット猿の連中が、総がかりで星を白眼《にら》み、暴風雨のなかで左舷《ポウト》・右舷《スタボウド》と叫び交し、釜を焚《た》き、機関を廻して来たのではないと、who could tell? 地球の色んな隅々《コーナアス》から旧大陸の端のはし「ほるつがる・りすぼん港」へこうして次ぎつぎに触《タッチ》していく貨物船の大商隊――ここには、あらゆる華やかさと恥と不可解がごく自然に存在し、事実、それらの堆積が鬱然《うつぜん》し醗酵してLISBOAを作ってるのだ。という証拠には、この「しっぷ・あほうい!」の物語も、前言のごとく僕じしんの経験《アンダゴウ》したその一つに過ぎない。Eh? What?

     3

 そもそもの葡萄牙《ポルトガル》入りから出直そう――。
 水は、一度低いところへ下りたが最後、どうしても上へあがらないものと決定的に思われていた。羅馬《ローマ》人がそう考えていたというのだ。だから彼らは、不必要にも山から山へべらぼうに巨大な水道の橋を築いて渡したもので、この、可愛らしい人智幼年時代のあとが、連々たる大石柱の遺蹟として車窓に天を摩《ま》している。すると葡萄牙《ポルトガル》だ。何という真正直なろうま人の努力!――なんかと感心してる僕の視線を、ほるとがる荒野の石塀とコルクの樹とゆうかり[#「ゆうかり」に傍点]と橄欖《かんらん》と禿山と羊飼いとその羊のむれが、瞬間に捉えて離した。石塀は崩れかけたまま重畳《ちょうじょう》する丘の地肌を縫い、コルクの木は近代工業の一部に参与している重大さを意識して黒く気取り、ゆうかり樹は肺病を脅退《スケア・アウェイ》するためにお化けのように葉と枝を垂らし、かんらん[#「かんらん」に傍点]は葡萄牙《ポルトガル》国民唯一の食品オリヴ油を産すべく白く威張って並び、禿山は全国を占領し、羊飼いは定住の家を持たずに年中草と羊と好天候を追って国境から国境の野原をうろうろ[#「うろうろ」に傍点]してるもんだから、よく殺されて有金《ありがね》と三角帽と毛皮付きいんばねす[#「いんばねす」に傍点]を奪われ、その殺したやつがまた直ぐに三角帽をかぶりいんばねす[#「いんばねす」に傍
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