トる最中だ。何て「|血だらけ《ブラッディ》」な! O! でいむ!
さっきから言うとおり、りすぼん港だった。葡萄牙《ポルトガル》の首府 LISBON ――土地の人は、何かしら異を立てなければ気の済まない、土地の人らしい一見識をもってLISBOAと書いて「リスボア」と読んでる―― anyhow, ふるい水に沿った古い開港場に、喚《わめ》く人間と恐るべき言語と、日光と雨と売春と、疾病と夕陽の壁と水夫の唾と海の道徳とがごっちゃ[#「ごっちゃ」に傍点]になって歴史的市場をひらいていた。そこへ、今日の夕方、この The Garcia Moreno が大西洋を撫でて入港して来たのだ。植民地の男が植民地の物産と何十日も同居して――だから、こうして植民地の船がはいると、港いっぱいに植民地的|臭気《エア》が充満して、女達は昨夜の顔へまた紅をなすり、家々の窓へさわやかな異国の風が吹き込み、猶太人《ジュウ》の両替屋に不思議な貨幣があふれ、船員の棄《す》てた灰色猫を船員が拾ったり、三年前の|海岸通り《ウォタ・フロント》の赤ボイラのかげの女が、まだその同じ赤ボイラの陰に白く蹲踞《しゃが》んで待っていたりして、あはあ! いろいろな笑いごとに何と古めかしく派手な LISBOA !
この週期的活気・海と陸との呼応・みなとのざわめき[#「ざわめき」に傍点]によって早くからきょうガルシア・モレノの入船《いりふね》を感づいた僕は、仲間《パル》のリンピイから預ったしっぷ[#「しっぷ」に傍点]・ちゃん[#「ちゃん」に傍点]鞄《ケイス》をすっかり用意して、それでも、マストの先の青い星がともるまでぼんやり待っていた。それは、かねての契約どおりに、僕がひとりでリンピイの鞄を下げてその新入港の船へ乗りこみ、甲板に品物を拡げて、当番の乗組員《クルウ》相手に商売する。リンピイはリンピイで例のほかの種類の商品を積んで、僕が呼ぶと、あとから船へ上ってこようというのだ。そこで僕は、リンピイの鞄と暗黒と一しょにがるしあ・もれの号へ漕ぎ寄せてみると、長い大西洋《アトランチコ》を済ました船員達は、上陸番なんか無視して誰もかれも「七つの丘の灯」へ逃げてったあととみえて、船尾《スタアン》の綱梯子《ジャコップ》が公然の秘密のようにこんなにぶらぶら[#「ぶらぶら」に傍点]していた。ボウテをつないで、僕と鞄がそのじゃこぷ[#「じゃこぷ」に
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