yイン》街上風物詩の第一頁だ。
 午後二時から四時まで、マドリッドを貫くアルカラ街は、闘牛場《ア・ラ・プラサ》へ近づくにつれ、闘牛へ殺倒する人と車馬のほかは交通を禁止される。この老若男女のすぺいん人の浪、亡国調を帯びたその大声の発音、日光のにおいと眠たげに汚れた白石建造物の反射、長く引っ張って押しつぶすような、あの歩きながら「海賊曲《コルサリアス》」を繰り返しつづける激情的な唄声――。
[#ここから2字下げ]
モロッコの陣地で
或る西班牙《スペイン》兵のうたえる。
南へレス産の黄葡萄酒!
北リオハ産の赤葡萄酒!
この赤とこの黄と――。
[#ここで字下げ終わり]
 陽光に酔った大学生の群が、肩に手をかけ合って今日の闘牛行《アウロス・トウロス》に加わっているのだ。
 低い太陽の真下に、アルカラの焼け石道を踏んでぎっしり詰めかけてゆく真摯《しんし》な闘牛行《アウロス・トウロス》の人々!
 銀行員はペンを捨て、鍛冶屋《かじや》は槌《つち》をおき、八百屋の小僧は驢馬《ろば》をつなぎ、政治家と軍人は盛装し、女房と娘は「牛の光栄」のため古めかしくいでたって、みんなが同じ赤と黄の華やかさにはしゃぎ[#
前へ 次へ
全67ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
谷 譲次 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング