uはしゃぎ」に傍点]切って急いでいる。
 AH・SI! 何という西班牙《スペイン》らしさ!
 闘牛は彼らにとって伝統的国家精神の具現なのだ。宗教以上の宗教、第一位の信仰なのだ。黒い彫刻的な男の横顔と、白く閃《ひら》めく女の眼と歯を見ただけでも、それはわかる。だから私も、西班牙《スペイン》人なみに眼の色を変えて、闘牛行《プラサ・デ・トウロス》をめざしこうして進軍しつつあるんだが、これから目撃しようとする「血と砂」の国民的大スポウツの予想に、皆がみな走りながらしゃべってるこの「西の支那人」の大群――その騒々しいこと、殺気立ってること、これじゃあ今日殺されるはずの牛族のほうがよっぽど冷静だろう。何のことはない。逆上と饒舌と有頂天の一大混成旅団が、アルカラ大街を帯のように徐々に動いて、むこうの闘牛場《ア・ラ・プラサ》の入口へ吸い込まれていくと思えばいい。そして、この叙景に忘れてはならないものは、じりじり[#「じりじり」に傍点]する太陽と真黒な地物の影、女の頬と旗と植物を撫でてゆくこの高台の光風だ。
 闘牛場《ア・ラ・プラサ》は近い。
 太陽《ソル》も近い。
 てらら・らん・らん!
 てらら・ら
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