角に突かれて絶命するのだ。そしてそれは、このバンデリエイルと次ぎのマタドウル・デ・トウロスに多い。
 眼前の凄惨さを直視するに忍びない私に、影絵のような西班牙《スペイン》のそのまた影絵のような過去の物語がうかび上がる。
 話中話――題をつけよう。
「イダルゴとホウセリト」
 過去といっても、そう古いことじゃない。まだ五、六年まえだが、イダルゴという西班牙《スペイン》有数の女優と、ホウセリトと呼ぶ、これも名高い闘牛士とが、愛し合ってマドリッドに共同生活を営んでたことがある。女は舞台の花、男は血と砂の勇士だ。場処は太陽に接吻されるスペインである。一流同士の華やかな恋愛として、この二人が当時どんなに全市の口の端《は》にのぼったか、そして、たださえ恋巧者な南国人の、しかも女優と闘牛士だ、いかに灼熱的な日夜がふたりのあいだに続いたことか、それは想像に難くない。
 なんかと、莫迦《ばか》に女優ばかり引合いに出すようだけれど、女優と闘牛士なんて、どっちも西班牙《スペイン》の生活に重大な別社会を作ってる人気商売である。相接する機会が多く、じっさい、何だかんだとしじゅう一しょに噂の種を蒔《ま》いて世間の
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