塊に見える。
真赤な丘だ。
じっと立ち停まって喘《あえ》いでる。
その影が砂に黒い。
入りかわりにそこへ、こんどは三人の矢鏃士《バンデリエイル》の登場だ。二本ずつ六本の銛《もり》を打ちこむ役である。
が、傷ついた牛はいま憤激の頂上に立っている。生命を守る本能にすっかり眼ざめ切っているのだ。その牛へ、ひとりずつ真正面から向って手銛《てもり》を差すのだから、このバンデリエイルの勇敢と機敏と熟練と、そして危険さこそは、闘牛のなかの見どころである。声援と衆望のうちにおのおの牛へ接近して、或る者は牛の鼻さきの砂に跪《ひざ》まずき、または側面から銛をかざして狙っている。牛が静止してる時は決して突けないものだそうで、いま躍動に移ろうとして前肢に力の入った刹那、それがバンデリエイルの機会だ。牛のほうで自分の力で銛さきへ飛び刺さって来る。だからみんな、眼を据えて、牛の肢《あし》の筋肉の微動を注視している。
ひっそりと落ちる闘牛場の寂寞――。
鷹揚《おうよう》な牛が洒落《しゃれ》た人間どもにいじめられてる。必ず殺されると決まってることも知らずに、牛はいま、何とかして生きようと最善を尽してるの
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