ない動物愛護者のつもりだが――とにかく、メリイ・カルヴィンの場合なんか、メリイには、リングの牛が、不愉快なほど無神経に、愚鈍に見えてしょうがないそうだ。だから、そんな馬鹿には生きてる権利もない、どんなに虐殺しても構わない――と言ったような、自分でも不思議な、まあ一種の制裁的痛快感に、思わず拍手しちまうといってる。それに、も一つ可笑《おか》しなことは、メリイは、闘牛を見るたびにああ自分があの牛だったらと思ってぞっ[#「ぞっ」に傍点]とするそうだが、この幾分変態的な戦慄《スリルス》も手伝って、一生闘牛場へ呪縛されるのがあのメリイの運命だろう――。』

     7

 槍馬士《ピカドウル》から仕留士《マタドウル》までかかって一頭の牛を斃《たお》す。これが一回。一日の闘牛にこの同じ順序を六ぺんくり返して、つまり六回に六匹の牛を殺すのだ。四時にはじまって、この間二、三時間。一回の闘牛の所要時間は約二十分|乃至《ないし》三十分の勘定だ。
 牛の背に二つの穴をあけて、ピカドウルは喝采裡に退場した。
 炎熱に走り廻って汗をかいてるところへ傷口の血が全身に滲《にじ》んで、この時はもう牛は一つの巨大な血
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