は亜米利加《アメリカ》へ帰るかわりに、地方巡業に出た闘牛士を追っかけて西班牙《スペイン》じゅうを廻り歩いた。そして翌年のマドリッド闘牛場はまたメリイ・カルヴィンの姿を発見した。あめりかも紐育《ニューヨーク》も生家の富も、この血と砂の誘惑のまえには彼女にとっては無力だった。帰国を促す交渉がとうとう破裂しても、西班牙《スペイン》に闘牛があるあいだ、すぺいんを見捨てることは彼女には不可能だった。麺麭《パン》と入場料を獲《う》るために彼女は女優になった。そしてずうっ[#「ずうっ」に傍点]とこんにちに及んでいる。いまのメリイ・カルヴィンは、闘牛によってのみ生甲斐《いきがい》を感じているといっても、過言ではあるまい。
『さあ――何といったらいいか、この気持はちょっと説明出来ないが――。』
とモラガスは、役者だけにさも困ったように首をかしげて、
『そうだな。動物に対する人間征服感の満足とでも言おうか。いや、決してそんな安価な感情じゃあないんだが、そうかと言って、君はじめ多くの外国人が考えるような、単純な「血の陶酔」でもない。勿論すぺいん人だって普通の感覚は持ってるし、闘牛以外では、ずいぶん人に譲ら
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