ころへやって来て、
『どうだったい、こないだの闘牛は?』
 と訊くから、私――というより、私の社交性が、
『うん。なかなか面白かったよ。|有難う《グラシアス》。』
 と答えると、彼は、
『ふふん。』
 と鼻の先でせせら笑って、
『生意気いうない。君みてえなげいこく[#「げいこく」に傍点]人に闘牛《トウロス》の味が解って耐《たま》るもんか。ほんとに闘牛《トウロス》を見るようになるまでにゃあ、君なんか、そうよなあ、もう十年この西班牙《スペイン》で苦労しなくちゃあ――。』
 私はついむき[#「むき」に傍点]になって、紅布《ミウレタ》へ挑戦する牛のようにモラガスへ突っかかって行った。
『冗談じゃない。闘牛《トウロス》なんかもう御《ご》めんだよ! 一度でたくさんだ。何だ! 一匹の牛を殺すのにああ何人も掛ったりして! ただ残酷というだけじゃない。あれあ卑怯だ。だから、見てるうちに、僕なんか牛に味方して大いに義憤を感じちゃった。すくなくとも文明的な競技じゃないね。』
 どうだ、ぎゃふん[#「ぎゃふん」に傍点]だろうとモラガスの応答を待っていると、案の条かれはにやにやして話題の急転を計った。
『うちの
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