一座にメリイ・カルヴィンという女優がいる。』
『誤魔化《ごまか》しちゃいけない。闘牛はどうしたんだ?』
『だからその闘牛のことだが、君、メリイ・カルヴィンって名をどう思う?』
『どう思うって別に――ただ西班牙《スペイン》名じゃないな。』
『そうだ。アングロ・サクソンの名だね。事実メリイ・カルヴィンは亜米利加《アメリカ》人なんだ。』
『何だ、面白くもないじゃないか。』
『ところが面白い。』ドン・モラガスはひとりで勝手に面白がって、『いいかい。おまけに彼女は紐育《ニューヨーク》の金持のひとり娘なんだ――では、どうしてこの、紐育《ニューヨーク》富豪の令嬢メリイ・カルヴィンが西班牙《スペイン》芝居の下っぱ女優をつとめていなければならないか――ドン・ホルヘ、まあ聞き給え。これには一条の物語がある。』
なんかと、いやに調子づいたドン・モラガスが、舞台では見られない活々《いきいき》さをもって独特の金切声を張り上げるのを聞いてみると、こうだ。
HOTEL・RITZ――マドリッド第一のホテル――の数年まえの止宿人名簿を探すと、メリイ・カルヴィンの自署を発見するに相違ない。あめりかのちょいとした家の子
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