\―すぺいんの人はYESというところを「スィ!」と歯の隙間《すきま》から、不可思議《ミステリアス》な息を押し出す――が罩《こ》もり、その呼吸に「カナリヤの労働」――きな臭い煙草――の名の香《かおり》が絡み、散乱する長調の音譜と、澎湃《ほうはい》たるこの雑色の動揺と、灼輝《しゃっき》する通行人の顔と動物的な興奮。それらの陰影がくっきりと濃く地に倒れて、上には、銅の鍋を低くぶら下げたような、いやにきらめく南国午後の太陽と、O! 何と思い切った紫外線の大氾濫!
そして、この西班牙《スペイン》的な群集・西班牙的な乗物・西班牙的な騒音!――それがどうだ! 今や犇《ひし》と町の一方をさして渦まいて往く。闘牛場へ!
AH! SI! SI!
すぺいん・マドリイは、この瞬間、「血の祭典」を期待して爪立ちしている。深紅の国民的行事のうちに、誰もかれもが完全に「|頭を失く《ルウズ・ワンス・ヘッド》」しているのだ、今日は。
プラサ・デ・トウロスに、午後四時から今年の季節中《テンポラダ》でも指折りの闘牛があるのだ。
だから、この流れる群集・游《およ》ぐ乗物・踊る騒音の一大市民行列――人呼んでマドリッド
前へ
次へ
全67ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
谷 譲次 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング