牛券仲買所《レベンタ》へ切符を買いに行くと、最初から出口へ近い座席を選ぶように忠告される。青くなって退場したり、卒倒したり、はじめての女でおしまいまで見通すのは殆《ほとん》どないからだ。だから、言わないこっちゃない。
しかし、男でも女でもこういう気の弱いのは初歩の外国人にきまっていて、西班牙《スペイン》人は大満悦だ。牛の血が噴流すればするほど、馬の臓腑が露出すればするほど、女子供まで狂喜して躍り上ってる。反覆による麻痺《まひ》だろうけれど、見ていると根本的に彼らの道義感を疑いたくなる。私は、無意識のうちに牛の肩を持っている自分を発見した。
一たい闘牛《トウロス》に対しては、西班牙《スペイン》国内にも猛烈な反対運動があって、宗教団体や知識階級の一部はつねに闘牛《トウロス》の改廃を叫んでいるんだが、この「血の魅力」はすぺいん国民の内部にあまりに深く根を下ろしている。羅馬《ローマ》法王なんかいくら騒いだって何にもならない。が、牛か人かどっちかが死ななければならないのが闘牛《トウロス》だとしたら、そして、はじめからリングで殺すつもりで育てた牛である以上、牛の死ぬのはまあ仕方がないとして、馬
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